モノノミカタ ~CNCを使った木工作品についての説明書きなど

自然と人をつなぐモノづくり。創作する上で知ったこと、考えたこと。

黄金比を使ったストラディバリウス・ミニチュアバイオリンの製作

 以前から弦楽器仲間に楽器キーホルダーを作ったら喜ばれるだろうとは思っていたのですが、先日、チェロ仲間(女性)から“チェロのキーホルダー作ってよ!”と言われ、重い腰を上げることにしたのです。

CNCでキーホルダーをつくる場合、①製作するモノが小さい、②データ入力が必要、ということから複雑なモノの形態をそのまま形にする「具象・写実」の方向は難しいので「抽象化」が必要です。

楽器の形を彫りだすには楽器の複雑な形状を“抽象化”のフィルターを通した上で、CADやイラストレーターなどでデータ化をしなくてはいけない、先ずはよりどころになる考え方や数値などを探し出すところから始める、というようにかなり面倒な仕事になります。

 

名古屋の木工作家のイベント会場で、“バイオリンのキーホルダー”をケヤキの板からのみで彫り出す作業をしている作家の方がいました。出来上がったものを見ると、細部の省略と部材の厚みの表現が見事で、モノを塊(かたまり)として捉える木工作家の能力はすごいなと感動したことを憶えています。私の場合、機械に彫ってもらうので自分の感覚を「寸法データ」に置き換えることが必要になります。

 

ネットで図面類を探していたところ、すごい記事を見つけました。

~「DECAGON/ヴァイオリンと黄金分割」(http://www.decagon.it/jhon/jhong.htm

これはクレモナ在住のヴァイオリン作家、坂井勝則氏が公開しているホームページで、ストラディバリウス(※)の詳細な研究を基に、クレモナ黄金期の製作理念や製作方法について著しています。

Wikipediaによると(以下の引用)、ストラディバリウスの製作技法は一度失われています。坂井氏は現存する楽器や資料から当時の考え方を再発見し、公表したのです。

“ストラディバリは、2人の息子、雇っていた多くの職人と共に、短期間に大量の弦楽器を作り出した。しかし、ストラディバリの死後に後継者は存在せず、ストラディバリの用いた製法は失われた。1745年にはほとんどの楽器職人がクレモナから去り、クレモナでの弦楽器製作の伝統も途切れた。21世紀現在、クレモナは弦楽器製作の町として復興しているが、これは他の地区から移入された製造技術によるものである。ストラディバリの弦楽器製造技術を再現する試みは現代に至るまで続いている。 ”(引用:アントニオ・ストラディバリ-Wikipedia)

 

坂井氏の主張は「当時の寸法設定は胴長に対する黄金比を基本としており、ストラディバリが理想としたヴァイオリンは正十角形を使って寸法を確認できる」ということだと私は捉えています。そこでその記述を基にCADで作図(下)してみました。

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黄金比はギリシャ・ローマ時代以前からデザインに用いられ、また自然の中にも見出せる美しい対比ですが、ストラディバリウスのモノとしての美しさはここに秘密があります。

キーホルダーにして見せる(魅せる)なら、この胴の形だろうと考え、材料の板厚(5mm)に対するバランスから、7分の1スケールで作成したのが下の試作品となります(胴の膨らみは表現しません)。木材は左からメープル、カヤ、ケヤキ、シタン、パドック。

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現物のヴァイオリンは、表板はスプルース、裏板・側板はメープル。いずれも白木で、ニスを塗っていますが、今回のアイテムは着色せず、木材の地の色を活かします。色は現物を想起させ、視覚の記憶を補完してくれます。試作品の中で現物の色に近いのがカヤとパドックとなのでこの2つを採用しました。(後日、1/8に変更。シタンを追加)

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上から赤(パドック)、黄(カヤ)、茶(シタン)のキーホルダー。

今回はバイオリンのみですが、後日、ビオラ・チェロも製作する予定です。

※ストラディバリウス

イタリアのストラディバリ父子3人(父アントニオ、子フランチェスコ、オモボノ)が製作した弦楽器のこと。 アントニオ・ストラディバリは、イタリア北西部クレモナで活動した弦楽器製作者で、ニコロ・アマティに師事し16世紀後半に登場したヴァイオリンの備える様式の完成に貢献した。 1660年代から1730年代まで(日本では江戸時代初期)に製作した弦楽器(ヴァイオリン族)は現存するものでヴァイオリン約520挺、ヴィオラ8挺、チェロ63挺。(引用:ストラディバリウス-Wikipedia)

ご存じの通り、ストラディバリウスは高額で取引され、今でも楽器メーカーや作家のコピー対象となっています。

 

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